「一人一芸の技と心」上原浩の心臓を聞く。おすすめ度
★★★★★
「私は公務員という立場であったが、それ以上に一人の酒徒であった。」この一貫した姿勢が上原先生の生涯の気概と心意気でした。こうした謙虚であって自信に満ちた酒造技術者としての自負が、稀代の純米酒派の大本山、他に比類を見ない伝統的酒造教育者上原浩に絶大の信頼と人望を集め、酒造関係者から消費者に至るまで、上原門下は今でも十分健在です。また、この新書に限らず、上原先生は文章の達人です。私見ではありますが、上原節の明確正確、徹底した論理と熱い情熱に溢れた日本語の素晴らしさは、50年近い技術指導者としての経歴から、常に現場で鍛え上げられた伝達の手段としての日本語の明快さから生まれたのではないかと思います。日本語はあいまいではない。十分クリアーでわかりやすく、熱気と覇気に富んだ言語である事を教えてくれます。
物事を正確迅速に、一秒を争って杜氏蔵人に伝えなくてはならない酒造技術者。今何が起きていて、そして今何をしなくてはならないか?早朝、釜の湯気の中で大声で激を飛ばす日本語です。上原先生と同じく酒の指導者で知られた、能登杜氏四天王の筆頭と仰がれる農口尚彦杜氏の日本語も実に論理的でシンプル。そしてやさしく人懐こく、しかもクールで冷静で科学的です。最近、都市圏でも人気の高い「天の戸」秋田・浅舞酒造の「夏田冬蔵」森谷康市杜氏の日本語も実にわかりやすい。そしてユーモアのセンスが抜群です。杜氏は言葉が少ないと言われます。しかしその言葉は的確です。それは命令ではなく適切な処置判断です。そして杜氏とは酒造チームの監督。チームワークと監督の度量が一番肝要。おい、そこ!慌てるんじゃない!落ち着いて仕事するんだ。俺がついてる。一に蒸し、二に蒸し、三に蒸し。強い酵母が酒の強さを生む。「生もとや山廃だから本物の日本酒であるなどという事は決してなく、下手な生もとや山廃なら、速醸の酒にも劣る。」そして名匠・平野佐五郎杜氏の「私は基本に忠実にやっているだけなんですよ。」という飾らない真摯な言葉を引用し、全国の酒造家、酒造技術者、国税庁醸造試験所の鑑定官がこの杜氏を畏敬していたと指摘。「酒づくりは、基本に忠実であることがもっとも大切であり、またこれが一番難しいのである。」酒の先生の正に男らしい男の日本語。気風のいい、粋でいなせな日本語です。
上原浩の酒造の三種の神器。心臓、辛抱、そして勘。それがなくて酒づくりは有り得ない。強い心臓が体力と決断力に、不屈の辛抱が夜を徹した麹つくりに、昼夜を分かたぬ精米に、そして微生物とコンマ一度の温度変化と闘う酒母つくりに、冷たい蔵の奥深く30日間の吟醸のタンクに聞こえる酵母の歌声は、醗酵のサザナミとなって夜のシジマに木魂する・・そしてこうした全工程を支える長年の集中的な経験によってのみ培われる勘が優れた技術者の判断力になる。育てられるのは酒だけではない。人である。酒が人を育てるのだ。そして酒によって育てられた人だけが、酒をつくることが出来る。
素晴らしい技術指導者。そして酒造の思想家。酒という文化伝承の啓蒙家でした。是非貴方にも日本酒の奥深い米の世界を、そして酒の深遠な宇宙を極めて頂きたいと思います。
熱い日本酒おすすめ度
★★★★★
各論に入る前の前半はぐいぐいと引きつける魅力がある
今まで科学的、かつ感情的にこれだけ日本酒に愛を注ぎ他者に伝えた文があるだろうか?
新潟の冷酒に満足していた自分が情けない。
著者の言う本当の居酒屋に行ってみたい気がしてくる。
一方でそのような店が経済的に行き詰まってくる現実もかいま見える。国の文化にとって酒は、言葉と同じくらい大事なものであろう。
私たちがこの日本酒をどのように愛でるかが試されている。
前半は日本酒愛好家必読であり、従来の香りを重視する考えをあらためさせられるであろう。
本当の日本酒を出してくれる店に通いたいと久々に思わせる一冊。
すごい情熱を感じたおすすめ度
★★★★★
お酒に興味がある人には間違いなくおすすめできます。
私は、日本酒に対する作者の思い入れに圧倒されました。
お酒に興味がなくても、何らかの技術を使ってお仕事をされている方や、
良い仕事をしたいと思っている方なら、読んで損はないと思います。
もっと日本酒を知りたい人のためにおすすめ度
★★★★★
お金を出しても飲みたいと思う酒が少ない、
と現状の日本酒を憂える筆者。
”日本酒みたいなお酒”が日本酒と思われ、
支持層を確実に失っている。
日本酒本来の姿はどういったものかを
熱く語っている。
美味しい日本酒を飲みたい、出合いたい、
と思っている人には必読の書であろう。
今までおすすめ度
★★★★★
日本酒に対して知らないことが非常によくわかりました。
いかに自分が日本酒に対して理解がなかったか、わからせてくれました。
とても純米酒(特にお燗)を飲みたくなる本です。
多少、上原氏の個人的な意見が出すぎている部分もありますが、それを含めてもとてもよい本だと思います。
とりあえず日本酒に興味のある人に対してはとてもお薦めの本です。
概要
純米酒を極める
僕はお酒大好き人間である。とりわけ、日本酒が好きだ。そう言うと大概、「お好みはお燗ですか冷酒ですか」と聞かれる。だが、お燗でも、常温でも、冷酒でも何でも好きなのだ。どの温度で飲むかは、その酒次第と思っている。
現在は冷酒が花ざかりだが、昔は冷やした酒を飲むという習慣はあまり見かけなかったし、夏はビール、冬は熱燗が普通だった。
それが、二〇年ほど前、ある作家の家に招かれた際、「菊姫大吟醸」というとんでもなくおいしい酒を頂戴し、冷酒にも目覚めた。一〇年近く前、「十四代」という酒に出合って、その豊醇さに圧倒されたことも大きい。
現在は各地の純米吟醸酒にコっている。純米酒とは、米と水だけで造った酒、吟醸とは良質な米の外側を四〇%以上磨きとり、丁寧に造り上げることを言う。
本書は、今日の地酒ブームを作り出した立て役者の一人であり、酒造技術指導家としても名高い著者が、“純米酒に非ざれば日本酒に非ず”という信念を中核において、これからの日本酒のあり方、味わい方についての透徹した問題提起を行ったもの。
日本酒について知識を記したというよりは、モノ作りの啓蒙書の色合いが強いので、その方面から読むのもよいかもしれない。酒に関する本は多いが、酒造りについての実体験に基盤を置いてここまで書ける人はほかにいるまい。
“純米吟醸酒はお燗をつけるとマズくなる”“ビールと同じく、お酒も造りたての生酒がおいしい”“春の全国新酒鑑評会で金賞を取った酒が完成度の高いものである”などという、チマタに流れる俗説がいかに間違っているかは、最初の一五ページほどを読んだだけですぐに分かる。そして、秋まで掛けて熟成された “秋あがり”の純米酒を水で少し割り、人肌の燗で飲むのが一番おいしい、という著者の主張にグングン引き付けられてゆく自分に気付く。
しっかり読むと心が揺さぶられる、純米酒的好著である。
(弁護士 木村晋介)
出版社/著者からの内容紹介
酒は純米、燗ならなおよし――。
本来、米と水だけでつくる日本酒は、これ以上ないほど安全で健康的な食品である。しかし戦中戦後の緊急避難策として始まったアルコール添加が定着し、経済効率のみが優先されてきた結果、「日本酒は悪酔いする、飲むと頭痛がする」といった誤解を生じさせ、今日の危機を迎えた。
我が国固有の文化である日本酒はどうあるべきか。60年近く、第一線の酒造技術者として酒一筋に生きてきた「酒造界の生き字引」が本当の日本酒の姿と味わい方を伝える。